大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)38号 判決

一 原告主張の請求原因事実のうち特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨、審決理由の要点については、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取消すべき事由の有無について検討する。

(一) 取消事由(一)について

1 本願考案の突出片が引手の凹溝部両側に挿入方向に一部を接続して打抜いて形成したものであることは、当事者間に争いがない。

してみると、本願考案の突出片は、原告の主張するとおり引手の挿入方向と同一方向に形成されたものといつて妨げない。

これに対して、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例においては、引手を襖に取付けるに際しては回動しつつその凹陥部を襖の引手取付孔に挿入するのであり、その横爪すなわち突出片は、引手を回動する方向に一部を接続して打抜いて形成したものであることが認められる。また、同号証によれば、同引用例の横爪は引手を取付孔に挿入すべく進入せしめる時は、弾性で引込み、引手を進行方向に廻動しつつ凹陥部を取付孔に挿入し、次にこれを反対方向に廻動し、取付孔に挿入し終つた時には、横爪の先端を取付孔壁に突入せしめ、引手を進行方向と逆行させる時は、横爪の先端が取付孔壁に突入しているため引手を抜出し難くするという技術思想のもとに構成されたものということができる。第一引用例について以上認定した構成および技術思想よりすれば、第一引用例の横爪すなわち突出片も、本願考案の突出片と同様に引手の進入方向と同一方向に形成されたものであるといつて妨げない。

2 原告は、本願考案と第一引用例とでは突出片が形成された方向の差異により作用効果にも差異がある旨主張する。しかし、この主張も以下述べるとおり理由があるものとは認められない。

(イ) 前記甲第五号証によれば、第一引用例の横爪はバルカナイズド・フアイバーによつて形成されているから、取付孔がこれよりも軟質の木材、紙質等のサツシユで形成されたものでなければならず、金属等で形成されたものを用いることを予想していないことは明らかである。しかし、当事者間に争いのない前記審決理由の要点によれば、審決は、取付体が取付孔から離脱するのを確実に防止できる効果を有するものとして第二引用例を引用しているのであるから、本願考案の作用効果を引用例のそれと対比するに当つては、単に第一引用例の記載のみならず、第二引用例の記載ともこれを対比すべき必要がある。

そこで、原告の主張するようにサツシユを金属製で形成した場合について、本願考案と第二引用例のものとを比較してみると、金属製サツシユに縁部がない場合は、いずれもその突出片(第二引用例の場合はバネ片)が取付孔壁に喰込む余地がない。また、縁部がある場合は、後に述べるように第二引用例のものも取付孔の縁部にバネ片が引掛り固着されるのであつて、本願考案と同様の効果が期待できることは明らかである。したがつて、原告が(イ)において主張する点が引用例のものに比して格段顕著な作用効果を有するものであるということはできない。

(ロ) 第一引用例の引手の凹陥部の形状が回動可能な形状に限られるものであることは、第一引用例の記載に照らして明らかである。しかし、引手を建具の取付孔に挿入して取付けるに際し、これを回動することなく直接縦方向に押入れる形式のものが周知である事実は原告も自認するところであり、当事者間に争いのない前記審決理由の要点によれば、審決はこの周知事実をも前提として本願考案の進歩性を判断しているところ、このような周知の形式の引手においてさまざまな形状のものが存在することは我々の日常見分するところであるから、原告の主張する凹陥部の形状の点が本願考案の顕著な効果といえないこと勿論である。

(ハ) 前記甲第五号証によれば、第一引用例の引手には釘を打つ手段を併用していることが認められる。しかし、同号証によれば、この引手は「凹陥部(2)ノ周壁ニ横爪(3)ヲ切出シ之ヲ取付孔壁ニ突入スベクナシタルヲ以テ本案品ハ取付孔ニ強固ニ固着シ」と記載されており、また引手の外径と取付孔の内径とはさほど違いがないことが認められるから、第一引用例のものも横爪の作用により引手が取付孔に強固に固着され、かたついたり離脱することが防止されているものと認められる。してみれば、同引用例において釘を打つことは引手を取付孔に固定するための補助的手段にすぎないということができ、第一引用例にこの釘打ちの手段が記載されているからといつて、本願考案と同引用例との間に固着の程度に著しい相違があるものということはできない。

(ニ) 本願考案と第一引用例との間に、突出片(すなわち、第一引用例における横爪)の突き刺さりにより引手を固着するという作用効果に格段の相違が認められないことは、前項において認定したとおりである。したがつて、第一引用例のものが使用中振動その他の原因によつてがたつくおそれがあるものとは認めがたい。また、後に述べるように第二引用例のものも本願考案と同程度に取付体が取付孔に固着されるものであるから、いずれにしても、本願考案の原告主張の作用効果が特段に顕著なものということはできない。

(二) 取消事由(二)について

原告は、第二引用例においてはバネ片と手摺本体内壁との摩擦によつて脚が手摺本体に止着しているにすぎず、容易に脚を手摺本体から取外すことができる状態にある旨主張する。そして、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例の実用新案の説明の項には、原告の主張するように、「バネ片5は押圧を受けた時には凹陥部4内に退避する。」旨およびその第二図には脚が手摺本体の内部において偏心せしめられた状態で止着している状態が記載されている事実を認めることができる。しかしながら、同号証によれば、この記載に引続いて「以上の構成に於て、脚3を手摺本体1の開放端に挿入すると、バネ片5は手摺1の内壁に圧接して挾窄され、脚3が完全に挿入された時には、バネ片5の端部がその拡開弾力により手摺本体1の内壁に喰込む状態となつて脚3を確実に止着する。従つて蓋2は余程強力に引張らない限り外れることなく、」と記載され、また、その前にも、バネ片について手摺本体の内壁に圧接噛合する旨記載されており、手摺本体が金属に限るという記載はない事実を認めることができる。したがつて、これらの記載によれば、原告の主張する前記記載はバネ片の端部が手摺本体の内壁に喰込む状態となることを否定するものではないと解すべきであつて、第二引用例は原告の主張するようにバネ片と手摺本体内壁との摩擦によつて手摺蓋が手摺本体から離脱するのを防止しようとするものではなく、バネ片が手摺本体内壁に喰込む状態となることによつて手摺蓋が手摺本体より離脱するのを防止する作用をいとなむものであり、蓋は容易には手摺本体から取外すことはできない状態にあることが認められる。してみれば、第二引用例のものにおいて手摺本体がその内周部に縁部の存在する金属製品であつた場合には、バネ片の端部がその縁部に引掛り、そのため蓋を手摺本体から取外すことは極めて困難となるものであろうことは容易に想像することができ、原告の主張するように容易に取外すことが可能であるということはできない。

したがつて、第二引用例のものにおいては、バネ片を設けることによりその取付体が取付孔から抜け出るのを確実に防止するようにしてある旨の審決の認定に誤りはない。

三 以上の次第であるから、審決には原告の主張するような違法はない。

よつて、原告の本訴請求は失当であるから棄却する。

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